※本記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。
カードの明細を見たら、数百円から数千円の買い物がいくつも並んでいる。どれも覚えはあるのに、「いつ、なぜ買おうと思ったのか」が思い出せない。
そんな自分を「だらしない」と片づけてしまう前に読んでほしいのが、ニューヨーク大学のアニンディヤ・ゴーシュさんの『Tap スマホで買ってしまう9つの理由』です。スマホ広告の現場実験を集めたこの本を開くと、「買う瞬間」がかなりの程度まで測られていることに驚きます。
この記事で分かること
- 場面・距離・混雑・天気・画面の大きさで、同じ人の反応がどう変わるか(本の実験の数字つき)
- 本の数字を論文の要旨や公的統計と突き合わせて分かった、補強と限界
- 売る側の本を買う側に読み替えた、7日間の「ポチり診断」
結論を先に。本は「買うかどうかは9つの力の組み合わせに左右される」と実験で示します。これを買う側から読むと、つい買うのは性格の問題だけではなく、弱くなる場面があるという話になります。自分の場面が分かれば、我慢の量を増やさなくても、決める場所を変えられます。
本の基本情報と、どんな人に向く本か
| 書名 | Tap スマホで買ってしまう9つの理由(原題 Tap: Unlocking the Mobile Economy) |
|---|---|
| 著者・訳者 | アニンディヤ・ゴーシュ 著/加藤万里子 訳 |
| 出版社 | 日経BP社 |
| 発行 | 2018年11月(原著は2017年) |
| ページ数 | 384ページ(版元の案内による) |
| ISBN | 978-4-8222-5599-2 |
読む前に知っておきたいのは、この本の宛先です。著者が第一に語りかけているのは、広告・販促・データ分析に携わる人です。「消費者のための防衛術」の本ではありません。だから当記事では、本の主張はそのまま紹介したうえで、会社員が買う側としてどう読むかを、分けて書きます。
ポイント:こんな人に向いています
- 通勤や昼休みの買い物が、後から見ると多いと感じている人
- 副業や本業の販促で、スマホのお客さんに「いつ、どう届けるか」を考えたい人
- 行動経済学の話を、身近な実験の数字で読みたい人
本の核心:スマホで買う瞬間を6つの論点でほどく
本は購買を動かす力を9つ挙げます。ここでは章の順を離れ、場面と時刻、距離、混雑と天気、画面と端末、足どりと連れ、データの取引という6つに束ね直しました。各論点は「本はこう言う」「なぜそう言えるか」「会社員の場面に置き換えると」の3段です。3段目は当記事の作例で、本には出てきません。
論点1:あなたは1人でも、客としては何人もいる
本はこう言う。ゴーシュさんは、1人の消費者の中に場面ごとの別の顔があると考えます。自身の例でいえば、娘の習い事に付き添う日に欲しいのはコーヒーの割引で、仕事の打ち合わせの夕方に歓迎するのはパブの割引です。だから売り手が知るべきなのは属性よりも、来た理由、望み、今の気分の3つだといいます。9つの力の土台に、この「状況」が置かれています。
なぜそう言えるか。インドの地域密着型サービスNearbuyは、場所と時刻と過去の行動を結びつけて通知を変えていました。クリック率は一般的な通知の4%に対して30%、取引に至る率は7%に対して12%です。時間帯の実験も同じ向きを示します。実用品は午前10時と正午に反応の山があり、午後7〜8時が底でした。娯楽の品は午前8〜9時が底で、正午から午後2時はその7.1倍です。さらに同じ商品でも、仕事に役立つと語るか楽しいと語るかで、効く時間帯がずれました。
会社員の場面に置き換えると。朝は丁寧に読み込んだメールに、夕方は一言で返してしまう。相手への敬意が減ったのではなく、場面が変わっています。買い物も同じです。納得のいかない物を買ったときは「この場面の自分が、別の場面の自分の予算を使った」と考えると、反省の仕方が変わります。
論点2:距離と時刻は、組み合わせで答えが変わる
本はこう言う。店に近いほど反応するのは誰でも想像できます。本の面白さは、それを金額と時刻に換算する点です。投稿サイトの広告では、店との距離が約1.6キロ縮むごとにクリック率がパソコンで12%、携帯電話で23%伸びました。ドイツの374市町村の調査では、1キロ遠いごとにクーポンを選ぶ確率が2〜4.7%下がる一方、割引を1%増やすと90〜230メートル近づいたのと同じ効果がありました。
なぜそう言えるか。象徴的なのがIMAXの映画の実験です。50%引きの案内を、上映の2時間前、26時間前、50時間前に届けて調べました。その後、場面を想定して尋ねた追加実験では、映画館の近くにいる人では、行く可能性が2日前の案内に比べて当日の案内で76%高く、遠くにいる人では前日の案内が最良で、当日案内の9.5倍、2日前案内より71%高い結果でした。説明に使われるのが解釈レベル理論です。遠い予定は抽象的に、近い予定は具体的に思い描くので、「行く自分」を想像できる距離と時間の組み合わせで動きやすいというわけです。著者も、これは映画という商品の性質に左右される話で、全商品に当てはまるとは言っていません。
韓国の調査は方向にも目を向けます。ふだんの移動の向きにある店は、逆向きの店より低い割引で客を呼べました。別のモールの調査では、モバイルクーポンは受け取ってから使うまで平均2分未満で、平均で10日弱の猶予があっても、全部が1日以内に使われていました。
会社員の場面に置き換えると。帰り道の途中にある店の「今日だけ」に弱く、反対方向の店の大幅割引には動かない。道順で決まっている部分が大きいのです。そして「あと10日使える」クーポンをその場で使ってしまったなら、10日分の猶予を自分で捨てたことになります。
論点3:混雑と天気は、体と気分から財布に届く
本はこう言う。もっとも意外なのが第8章の地下鉄の実験です。アジアの都市で1万5000人以上にテキスト広告を送ったところ、1平方メートルに2人の車両で平均2.7%だった購入率が、5人の車両では4.1%でした。2人の車両と比べると、4人では16%増にとどまるのに、5人では47%増へ跳ねます。
なぜそう言えるか。満員のエレベーターで知らない人と乗り合わせると、つい階数表示を見つめてしまいます(当記事のたとえ)。本はスマホにも似たことが起きると見ます。通信会社が購入者に尋ねた結果、浮かんだ答えは携帯電話への没頭で、居心地の悪い車内を離れる先が画面だったというのです。ただし条件があります。実験は5人までで、著者自身が東京のような詰め込みには広げられないと断り、それ以上では使いにくさがまさるだろうと見ています。効くのも見知らぬ人に囲まれた混雑で、客席の埋まった飲食店や競技場は別だといいます。
ソウルの調査(約4万4600人、クーポン約7万2000枚)では、通勤中の人のクーポン利用率は31.6%と、通勤以外の1.76倍でした。通勤客に効くのは1枚で期限の短いもの、それ以外の人に効くのは最大5枚で期限が1週間ほどのものです。ストレスがある場面では、選ぶ手間を避けるということでしょう。
天気の研究は「見逃すと損」という言い方から読むと面白くなります。動画配信サービスの広告を1000万人以上に送ったテンプル大と復旦大の研究で、この言い方は晴れより雨の日に効きました。機嫌が悪いときほど損を避けたくなる、という実験前の見立てに沿う結果です。購入そのものは、曇りに比べて晴れで31%多く、雨で9%少ない結果でした。晴れたら出かけて店で買う、という予想とは逆で、研究者は日光で気分が上向くと説明します。
会社員の場面に置き換えると。月曜朝の満員電車でセール通知を開くのは、物が欲しいからとは限りません。周りから逃げたいから画面を見て、そこに売り場があるのです。雨の日に「本日まで」が妙に気になるのも、この研究の見方なら説明がつきます。
論点4:小さな画面は、比べる力を削る
本はこう言う。スマホの画面は60〜100平方センチメートルほどです。検索順位が1つ上がるとクリック率はパソコンで25%、モバイルで37%伸びます。5番目ではモバイルのほうが26%低く、10番目では52%も低くなります。ドイツの調査では、順位1つの差を埋めるのに10〜12%の割引が必要でした。
なぜそう言えるか。スクロールには手間と集中力がかかり、見終えた内容を覚えておくのも難しくなるからです。本は両手で目の周りを囲んで窓の外を見る、という簡単な体験を勧めています。やってみると、見えている部分にばかり意識が向くのが分かります。裏返しの実験もあります。ヨーロッパの小売データでは、スマホからパソコンへ切り替えた買い物は、同じ端末のままより平均の購入率がほぼ2倍でした。比較的高い品を短い間隔で繰り返し見ている場合に、特に差が出ます。韓国の小売の実験では、広告をウェブとモバイルの両方に出すと、ウェブのクリック率が34%、購入率が36%伸びました。人は端末を役割分担させ、大きな決断を大きな画面に持ち込むことがあるのです。
会社員の場面に置き換えると。会議資料の1枚目だけ読んで賛成した案が、後でおかしいと分かることがあります。スマホの検索はあの1枚目の状態に近い。家電や保険のように比較表を作りたくなる買い物を、片手の親指で決めているなら、まず画面を変える価値があります。
論点5:見られているのは、今いる点ではなく通ってきた線
本はこう言う。位置だけでなく移動の軌跡を使うと精度が一段上がる、というのが著者の主張です。アジアの大型モールで8万人超を4群に分けた実験で、軌跡に基づくクーポンの利用率は、位置だけの場合より35%、無作為より94%高くなりました。
なぜそう言えるか。位置が口座の残高なら、通ってきた道は明細のようなものです(当記事のたとえ)。明細があれば次の行き先を先回りできるので、客にも利点が出ます。軌跡クーポンの客は滞在10分未満で平均56.78ドル使い、位置クーポンの客は13.5分で41.25ドル、無作為の客は28分で23.5ドルでした。店の収益が増えると同時に、客の時間も減ったわけです。ただし目的なく見て回る人、特に週末は、無作為のほうが効く場面もありました。
誰と一緒かも効きます。同じモールの別の実験で、1人の客と比べると連れのいる客は1.97倍反応し、人数が増えるほど強まって、3人組は2人組の1.46倍でした。男女のカップルは逆にもっとも反応しません。機内販売の研究では、他の乗客が買うのを見ると平均購買点数が30%増え、酒については買う確率が78%高くなりました。
会社員の場面に置き換えると。同僚数人と出かけた帰りに、話題に出た物をその場で注文する。1人なら翌日には忘れていたはずの買い物です。買った理由の欄に「誰といたか」を書く人はいませんが、効いている力の1つです。
論点6:嫌われるのは広告ではなく、釣り合わない取引
本はこう言う。人は広告を嫌がりながら、役に立つ情報は逃したくない。プライバシーを気にしながら、見返りがあればデータを渡す。著者はこの矛盾を出発点にして、スマホはつきまとう存在でなく、頼れるコンシェルジュになるべきだと説きます。
なぜそう言えるか。追跡すると説明したモールの実験で、4分の3以上がそれでも参加を選びました。カンザス州のAT&Tの光回線は月70ドルで、閲覧履歴の記録を断ると月29ドル上乗せでした。データにはっきり値札がついた例です。やりすぎの線も測られています。ディスプレイ広告は、商品の名前を覚えた程度の段階では1日3回でうんざりされ始め、関心を持った段階なら6回までは許容されました。最適は2回と4回でした。アプリの導入実験(米国25万人)では、お金の特典が導入を447%、便利さの説明が146%増やしましたが、購買が長く増えたのは、特典で入れた人ではなく、利点の説明を受けて入れた人のほうでした。インドのレストラン検索の実験では、広告と明示したほうが電話が77%増えています。
会社員の場面に置き換えると。通販の会員登録で住所と生年月日を入れ、店のアプリに位置情報を許可する。受け取ったのは数百円のクーポンだった、という見方もできます。損得は人それぞれで、大事なのは取引だと自覚しているかどうかです。
カギを握るのは自分自身だ。
出典:アニンディヤ・ゴーシュ著、加藤万里子訳『Tap スマホで買ってしまう9つの理由』(日経BP社)「おわりに」より。
ポイント:6論点を買う側の問いに直すと
| 論点 | 買う前に自分へ聞くこと |
|---|---|
| 場面 | 今の自分は、どのモードで欲しがっているか |
| 距離・時間 | 「今日だけ」と「近い」に押されていないか |
| 混雑・天気 | 物が欲しいのか、この場から逃げたいのか |
| 画面 | 上の数件しか見ずに決めていないか |
| 軌跡・連れ | 1人のときでも買うか |
| 取引 | 何を渡して、何を受け取っているか |
調べてみた:本の数字を外の資料と並べる
本の数字は説得力がありますが、多くは2013〜2016年ごろ、特定の国と企業のもので、日本で検証されたものではありません。本を読んでいて引っかかった点と、日本の今について調べました。
地下鉄の「約2倍」の謎。本文には混雑した車両の客は約2倍買うとある一方、示された数字の2.7%→4.1%は約1.5倍です。そこで元の論文(Marketing Science, 2016年)の要旨を見ると、1平方メートルに2人未満で2.1%、5人で4.3%と書かれていました。これならほぼ2倍です。基準の取り方の違いの可能性がありますが、本の数字との関係は要旨だけでは確かめきれません。また本文の全体の反応率3.22%は、本の注にある1万690人中334人から計算すると約3.12%です。どちらも結論の向きは変わりませんが、細かな値を暗記するほどの精度ではないと考えるのが安全です。
スーパーの「16.1%」。店内を歩くほど予定外の買い物が増える研究を、本は「約17メートルで1ドル」「16.1%増(13.80ドルから21.20ドル)」と紹介します。後の2つの数字は計算が合いません。ニューヨーク大の紹介記事によれば、55フィートで約1ドルは本と同じですが、16%超はシミュレーションによる推定で、21.29ドルと13.83ドルは、予定の順路から遠い品と近い品のクーポンを比べた実験の値でした。別々の話が本の中で1つにまとまったようです。「歩くと買う」という方向は確かでも、「スマホのクーポンで54%増える」とは読まないほうがよいでしょう。
| 調べたこと | 資料の中身 | 本との関係・注意 |
|---|---|---|
| 日本の家計 | ネットを使った支出は、世帯主が35〜44歳の世帯がもっとも多く月35,946円。総世帯の平均は22,817円(総務省統計局、2026年4〜6月期) | 舞台が身近な話だと裏づける。パソコンや旅行・保険も含み、スマホ限定ではない |
| トラブル | 2025年度の消費生活相談は100.6万件、通信販売が38.0%。インターネット通販と定期購入は、化粧品や健康食品の定期購入に関する相談が多い(国民生活センター) | 本の言う「便利さ」の裏側。本が扱わない買う側のリスク |
| 広告は得か | 自分に出た広告の品と検索結果を比べると、検索結果の価格は平均10%低く、53.29%で競合のほうが安い(Mustriほか、487人) | 関連する広告は情報になるという本の見方への補足。査読前の草稿で、パソコンの広告が対象 |
| データの扱い | 位置情報の売買をめぐり、米FTCが2026年5月に公表した合意命令案。明示の同意なしに機微な位置情報を売ることを禁じる内容で、裁判官の署名で効力を持つ | FTCの主張に基づく和解案で、違法と確定したわけではない。企業の悪用は多くないと見ていた本の刊行後も、データの扱いは争点であり続けている |
| 返品 | 通販は受け取りから8日以内なら送料自己負担で返品できるが、広告に特約があれば特約が優先。ネット通販では最終確認画面にも表示が必要(消費者庁) | 本にない、日本の買う側の実用知識 |
多本読造の見立て
賛成できる点。もっとも価値があるのは、「場面で人が変わる」を実験で示したことです。買い物の反省は、つい性格や根性の話になります。本を読むと、問いが「なぜ自分は弱いのか」から「どの場面で起きたのか」に変わります。問いが変われば、打てる手も増えます。もう1つは組み合わせの視点です。近さも期限も単独で考えていては見えない動きが、数字で見えてきます。
見方が違う点。著者は企業と協力して研究してきた人で、データ活用の未来に明るい見通しを語ります。その立場だからこそ集まった実データが本の強みです。ただ、コンシェルジュの給料を誰が払っているかは意識しておきたいところです。広告主が費用を出す以上、勧められるのは「あなたに最適な品」とは限りません。上の検索結果の比較は、そのことを考える材料になります。データを渡して便利に使う生き方も十分に合理的で、時間を買いたい人にはむしろ向いています。一方、家計を締めたい時期の人には、同じ便利さが逆に働くこともあります。条件が違えば答えも変わる、という読み方が合うと思います。
2026年に読む面白さ。本の終わりには、家の端末が食材を自動で補充する近未来の場面が出てきます。そこで著者はこう書き添えています。
2026年のインプラントや世界を詳しく語るのは、才能あるSF作家たちに任せたほうがいいだろう。
出典:アニンディヤ・ゴーシュ著、加藤万里子訳『Tap スマホで買ってしまう9つの理由』(日経BP社)「おわりに」より。
その2026年が今年です。読み返して印象に残るのは、未来の場面の2人が、食材が切れたことさえ知らないまま補充を受けている点でした。決める瞬間そのものが消えているのです。そこまで行くと、問いは「いつ弱いか」から「どこまで任せるか」に移ります。定期購入やサブスクの自動更新は、その入り口といえるかもしれません。9つの力の見取り図が、任せる範囲を決める道具にもなるというのが多本読造の感想です。
ポイント:この本の読み方
- 実験の「向き」と「条件」を読む。細かい値は覚えなくてよい
- 売る側へのアドバイスは、そのまま自分への注意書きになる
- プライバシーの見立ては当時のもの。今の制度や事例と並べて読む
多本読造流の実践:7日間の「ポチり診断」
本は売る側の本なので、買う側の手順は書かれていません。ここからは当記事のオリジナルの提案です。いきなり買い物を減らそうとせず、まず自分がどの力に弱いかを測ります。売る側が客を測るのと同じ方法を、自分に向けるだけです。
| 日 | やること | 時間 |
|---|---|---|
| 1日目 | 通販アプリの購入履歴から、直近の買い物を5件選ぶ | 5分 |
| 2日目 | 5件それぞれに、買った時刻・場所・天気・一緒にいた人・きっかけ(通知か検索か)を思い出して書く | 10分 |
| 3日目 | 5件を「今も満足」「なくてもよかった」に分け、後者に共通する場面を丸で囲む | 5分 |
| 4日目 | 囲んだ場面の通知だけを切る。全部は切らない(欲しい情報まで失うと続かないため) | 5分 |
| 5日目 | 下の「待ち時間表」の金額を自分用に書き直す | 5分 |
| 6日目 | 端末の広告・追跡の設定を確認する(iPhoneは 設定>プライバシーとセキュリティ>トラッキング)。残すものと断るものを、自分で選ぶ | 10分 |
| 7日目 | 今週買った物を同じ形で記録し、1日目と見比べる。続けるのは効いた1つだけでよい | 10分 |
次の表は作例で、研究で導いた数字ではありません。論点4の「画面を変える」と論点2の「期限に押されない」を、金額で仕組みにしたものです。
| 金額(作例) | 決める場所 | ルール |
|---|---|---|
| 1,000円未満 | どこでも | その場でよい。ここで悩む時間のほうが高くつく |
| 1,000〜1万円 | 電車を降りてから | 混雑の中では欲しい物リストへ入れるだけ |
| 1万〜5万円 | 翌日、大きな画面で | 検索で3件以上比べる。広告の経路から入らない |
| 5万円以上・定期購入 | 週末に、家族や友人に話してから | 総額と解約条件を紙に書く |
最後に、支払いボタンの直前に見る4項目です。
- 今の場面は、診断で丸をつけた「弱い場面」ではないか
- 「本日まで」の品は、本当に今日までか。来週も似た割引がなかったか
- 最終確認画面で、返品の可否と送料を見たか
- 「初回だけ安い」なら、2回目以降の金額と解約方法を見たか
副業や販促に関わる人へ。この診断は、売る側でもそのまま使えます。自分のお客さんが買った時刻・場所・きっかけを並べ、反応の良い場面を1つ見つけてください。本の実験でいえば、大人だけの集団には、単品の値引きより「1つ買うと1つ無料」のような一緒に使える特典がよく効きました。ただしアジアの1つのモールでの結果なので、自分の客で小さく比べるのが先です。広告だと分かる表示は、2023年10月に始まったステマ規制の点からも欠かせません。
ポイント:我慢を増やさず、決める場所を変える
診断の目的は買い物をゼロにすることではありません。買ってよかった物はそのままに、後悔の出やすい場面だけ、決断を別の時間と画面へ移すことです。
よくある疑問
- 『Tap』の要約だけ読めば十分ですか?
- 考え方はつかめますが、本の面白さは個々の実験の設計にあります。偶然の出来事を活かした調べ方や、当記事で触れなかった自販機やショールーミングの話、将来の技術の章は、本で読む価値があります。
- 2018年の本で、内容は古くないですか?
- 市場規模の予測やサービス名は古くなっています。一方、人の反応の傾向を扱う部分は今も考える材料になります。制度や事例は最新の情報と合わせて読むのがよいでしょう。
- 通知を全部切れば解決しますか?
- 買い物のきっかけは減らせますが、自分で開いて買う分は残ります。役立つ情報も止まるので、当記事では弱い場面に関わる通知から切ることをすすめます。
- 本の数字はそのまま日本に当てはまりますか?
- 著者は国による違いが小さいと述べていますが、日本で検証された話ではありません。傾向のヒントとして使ってください。
この本が合う人/合わない人
| 悩み・目的 | この本で得られること | 合う度合い |
|---|---|---|
| つい買う理由を、感覚でなく数字で知りたい | 場面ごとの実験結果と、その理由の説明 | とても合う |
| 販促の出し方を根拠つきで考えたい | 配信の時間・距離・回数を考える視点 | とても合う |
| 今すぐ節約の手順が欲しい | 買う側の手順は書かれていない。家計の本と併用がよい | 別の本も必要 |
| プライバシーの危険を詳しく知りたい | 扱いはあるが、著者は活用に前向きな立場。別の資料も読みたい | 条件つき |
あわせて使いたいもの
本の実践に役立つものを選びました。リンクにはアフィリエイト広告(PR)を含む場合があります。
『予想どおりに不合理』ダン・アリエリー 著、熊谷淳子 訳(ハヤカワ文庫NF)
「無料」や値段の比べ方で判断が動く実験を集めた、行動経済学の定番です。『Tap』が場面の外側の力を語るなら、こちらは頭の中のクセの話なので、両方読むと見取り図が埋まります。
『影響力の武器[新版]人を動かす七つの原理』ロバート・B・チャルディーニ 著、社会行動研究会 監訳(誠信書房、2023年)
希少性や周囲の行動に人が動かされる仕組みを扱う本です。「本日限り」や「みんな買っている」に出合ったとき、何が起きているかを言葉にできるようになります。
コクヨ 測量野帳 スケッチ(セ-Y3)
3mm方眼の薄い手のひらサイズのノートです。7日間の診断の記録や、欲しい物の待機リストをスマホの外に置けます。アプリを開かずに済むので、記録のついでに買い物を始めてしまう心配がありません。
『羽仁もと子案家計簿 2027年 通常版』(婦人之友社)
診断の次に、家計全体を見たくなった人向けの長く続く手書きの家計簿です。品目を書き写す手間が、ネットの買い物を振り返る時間になります。
まとめ
要点3つ
- 買う瞬間は、場面・距離・時間・混雑・天気・画面・連れの組み合わせに動かされる(本の実験)
- 数字は条件つきの証拠。「約2倍」や「16.1%」のように、元の資料と並べると読み方が変わる
- 買う側は、弱い場面を診断し、決める時間と画面を移せばよい(当記事の提案)
動画でもっと気軽に。多本読造じいと会社員くんのアニメでも解説しています。
参考文献・出典
- アニンディヤ・ゴーシュ著、加藤万里子訳『Tap スマホで買ってしまう9つの理由』日経BP社、2018年(本文で紹介した実験は本の記述と注による)日経BOOKプラスの書誌
- Andrews, Luo, Fang, Ghose “Mobile Ad Effectiveness: Hyper-Contextual Targeting with Crowdedness” Marketing Science 35(2), 2016 要旨(EconPapers)
- Hui, Inman, Huang, Suher の研究紹介(ニューヨーク大学スターン校) Research Highlights
- 総務省統計局 家計消費状況調査(インターネットを利用した支出、2026年4〜6月期) e-Stat
- 国民生活センター「2025年度 全国の消費生活相談の状況-PIO-NETより-」2026年8月5日 公表ページ
- 消費者庁「通信販売|特定商取引法ガイド」 該当ページ
- Mustri, Adjerid, Acquisti “Behavioral Advertising and Consumer Welfare”(FTC PrivacyCon 2022 提出の草稿) PDF
- 米連邦取引委員会 プレスリリース 2026年5月4日 FTC
- Apple サポート(iPhoneのトラッキングの設定) 該当ページ
- 関連商品の書誌・商品情報:『予想どおりに不合理』紀伊國屋書店、『影響力の武器 新版』丸善ジュンク堂、測量野帳 コクヨ、『羽仁もと子案家計簿 2027年 通常版』丸善ジュンク堂
※「会社員の場面」のたとえ、待ち時間表、7日間の手順は当記事の創作で、本には出てきません。本の実験は特定の国・企業・期間のもので、日本で検証した話ではありません。お金や健康に関わる判断は、ご自身の状況に合わせて専門家にご相談ください。
