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急に振られて口にした数字が、そのまま予算になる。面接で話がはずんだ応募者を推したら、入社後に合わなかった。NISAで乗り換えたら、売ったほうが上がっていた。わたし(多本読造)のところにも、30〜40代の方から「判断する立場になったのに、自分の判断が信用できない」という声が届きます。
そんな人に読んでほしいのが、ノーベル経済学賞を受けた心理学者ダニエル・カーネマンさんの『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?』(村井章子さん訳、早川書房)です。この記事では、上巻の考え方を章の順ではなく、見積もり・面接・会議・お金といった会社員の場面ごとに組み直して解説します。あわせて、本の研究がその後どこまで確かめられたのかも調べました。
- 『ファスト&スロー』上巻の核心(直感が答えを出し、熟慮はたいていそれを素通しする仕組み)
- 「自信がある判断」ほど外れやすい場面と、その見分け方
- 本の研究の「いまも残っている部分・考え直された部分」と、会社員向けの1週間の実践表
先に結論です。この本は「直感を捨てて論理的になれ」と説く本ではありません。直感のくせは消せない。だから、間違えると痛い場面だけを見分けて、意見を先に書く・項目ごとに採点する・平均から考える、といった「外付けの仕組み」で判断を守る――これが上巻から持ち帰れるいちばん実用的な教えです。
『ファスト&スロー(上)』の基本情報と、向いている人
| 書名 | ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? |
|---|---|
| 著者・訳者 | ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(訳) |
| 出版社・発行 | 早川書房、2012年11月(原著は2011年刊。2014年にハヤカワ文庫NF版も刊行) |
| ページ数 | 370ページ(紀伊國屋書店ウェブストアの書誌情報による。単行本) |
| ISBN | 978-4-15-209338-7 |
| 上巻の範囲 | 序論と、第1部「二つのシステム」・第2部「ヒューリスティクスとバイアス」・第3部「自信過剰」の前半(第21章まで)。損失回避やプロスペクト理論は下巻の内容 |
カーネマンさんは、相棒の心理学者エイモス・トヴェルスキーさんと、人の判断がどんな方向にずれるかを数十年にわたって実験で確かめてきた人です。その仕事が経済学を変えたとして、2002年にノーベル経済学賞を受けました。2024年3月に90歳で亡くなっています。
著者が序論で掲げる狙いは、意外にも職場の雑談です。同僚の判断や会社の方針を語るときの言葉を、もっと正確にしたいというのです。各章末の短い会話例も、事業計画・採用・投資など職場の話がほとんど。思った以上に「現場の本」です。
- 会議で数字や意見を即答して、あとで後悔することがある人
- 採用面接や部下の評価など、初めて「人を決める側」に回った人
- 新NISAなどで、自分の判断でお金を動かすようになった人
- 「経験と勘」で押し切る人の意見が通る職場に、もやもやしている人
本の核心:職場の5つの場面で読み解く
上巻は21章ありますが、ここでは章の順を離れ、会社員が判断を迫られる場面ごとに本の主張を組み直しました。見積もり、面接と評価、会議、成績の上下、お金と予測の5つです。それぞれ「本はこう言う → なぜそう言えるか → 会社員の場面では」の3段で説明し、最後に、全部の場面に共通する頭の仕組みをまとめます。
場面1 見積もり・交渉:最初に見た数字が、答えを決めてしまう
本はこう言う。何かを見積もる直前に目に入った数字は、それがどれほどでたらめでも、見積もりをその方向へ引き寄せます。本はこれを「アンカー(錨)」と呼びます。
なぜそう言えるか。本の例はどれも強烈です。平均15年以上というベテランぞろいのドイツの裁判官に、万引き事件の調書を読ませ、細工して3か9しか出ないサイコロを振らせてから刑期を答えてもらうと、9が出たグループの平均は8か月、3のグループは5か月でした。不動産仲介業者に実在の住宅を査定してもらった実験でも、見せる売り出し価格を変えるだけで査定が動き、引っぱられた度合いは業者41%・学生48%とほぼ同じ。違ったのは、業者のほうは影響を否定したことです。著者は対策として、法外な数字には乗らずに交渉を打ち切る、相手の数字に反する理由を自分で探す、といった方法を挙げます。
会社員の場面では。前任者の見積もりを開いてから自分の見積もりを作ると、ほぼ前任者の数字に寄ります。転職の年収交渉で、先に提示された額を軸に考えてしまうのも同じです。章末の会話例にも、買収先の事業計画書の売上予想を、影響されないようあえて見ないという場面があります。自分の数字は、相手の数字を見る前に書く。順番を入れ替えるだけで、錨の効き方はかなり変わります。
場面2 面接・部下の評価:本当の問いが、易しい問いにすり替わる
本はこう言う。著者が上巻の背骨として示すのが「質問の置き換え」です。答えにくい問いを前にすると、頭は近くにある答えやすい問いを勝手に選んで答え、それを元の問いの答えとして差し出します。答えがすぐ出るので、すり替えに気づきません。そこに、最初の印象が後の評価まで染める「ハロー効果」が重なります。
なぜそう言えるか。ドイツの学生の調査では、幸せかどうかを聞く直前に「先月デートを何回したか」を尋ねると、二つの答えがはっきり連動し、順番を逆にすると関係はほとんど消えました。人生全体の幸福という大きな問いが、直前に思い出したことにすり替わったわけです。著者自身も教授になりたての頃、2問の答案を1人分ずつ続けて採点していて、1問目の出来が2問目の点を左右していたと気づき、全員の1問目を読んでから全員の2問目へ、という順に改めています。
面接についての本の答えは具体的です。著者は21歳の中尉だった1955年、軍の面接方式を作り直しました。6つの特性について決まった順に質問し、1項目ずつ5段階で採点して計算で合計する方式です。予測は以前よりはっきりよくなり、しかも採点を終えた最後に面接官が目を閉じて出す総合印象も、かなり当たっていました。直感は捨てるものではなく、事実を集めて採点した後に使えば役立つ、というのが著者の結論です。
会社員の場面では。面接の本当の問いは「この人は3年後に成果を出すか」なのに、答えているのは「この30分、話していて気持ちよかったか」だったりします。部下の評価でも「半年の成果」が「最近の印象」にすり替わりがちです。本が示す手順は、必要な特性を6つほどに絞って質問を用意し(準備は30分ほど)、1項目ずつ採点して合計で決め、「でも気に入った」で覆さないこと。外注先の選定や引っ越し先の比較にも使えます。
場面3 会議・報告:聞いていない側の話は、頭から消える
本はこう言う。直感は、手元の話がきれいにまとまっていると、欠けている話を探そうとしません。著者はこれを「見たものがすべて」(英語の頭文字でWYSIATI)と名づけています。
ストーリーの出来で重要なのは情報の整合性であって、完全性ではない。
(ダニエル・カーネマン著、村井章子訳『ファスト&スロー(上)』より)
なぜそう言えるか。ある訴訟について、片方の弁護士の話しか聞かなかった人のほうが、両方を聞いた人より自分の結論を強く信じていた、という実験が根拠として紹介されています。同じ話の出し方の違い、たとえば手術の「生存率90%」と「死亡率10%」で受け止め方が変わること(フレーミング)も、同じ根から生まれると本は言います。だから著者は、会議では話し合いを始める前に、出席者それぞれに意見を短く書いて出してもらうよう勧めます。先に発言した人や声の大きい人に、残りの人が引きずられるのを防ぐためです。
会社員の場面では。トラブルの報告を営業部からだけ聞いて開発部を責める。口コミの最初の1件で店を候補から外す。どちらも「聞けていない側」が消えています。大事な判断の前に「この話に出てこない人は誰か」と一度問うだけで、見えていなかった半分が浮かびます。
場面4 成績の上下:たまたまの波に、理由をつけてしまう
本はこう言う。直感は出来事に原因を当てはめるのが得意で、ただの偶然の上下にも理由を見つけてしまいます。代表が「平均への回帰」の見落としです。特別よい結果の次は普段に戻りやすく、特別悪い結果の次も同じです。
なぜそう言えるか。本には、叱った後に訓練生が上達するのを「叱ったおかげ」と信じていた空軍の教官の例が出てきます。実際は、出来の悪かった回の次が平均に戻っただけでした。著者の好きな式は「成功=才能+運」「大成功=少しだけ多い才能+たくさんの運」。また、「小さい学校は成績がよい」という調査をもとにゲイツ財団が17億ドルを投じた例も出てきますが、小さい学校は成績の悪い側にも多く、人数が少ないぶん結果がばらつきやすいだけでした。
会社員の場面では。過去最高の売上の翌月に数字が落ちると「気が緩んだ」と叱りたくなり、5人のチームの満足度が急に上がると「施策が効いた」と言いたくなります。その前に「たまたまの上振れ・下振れでは?」と問う。叱ったら成績が戻った経験は、叱る効果の証明にはならないのです。
場面5 お金と予測:自信の強さは、当たる確率と別物
本はこう言う。上巻の終盤で著者がくり返すのが、この一点です。
強い主観的な自信がいくらあっても、それは予測精度を保証するものではない
(ダニエル・カーネマン著、村井章子訳『ファスト&スロー(上)』より)
なぜそう言えるか。著者は若い頃、軍で士官候補を選ぶ集団課題の判定を担当し、後の成績とほとんど関係がないと分かった後でも、次の候補を前にするとまた自信が湧いたと書いています。投資の例も具体的です。個人投資家約1万人・7年分・約16万3,000件の取引の研究では、売った銘柄のほうが代わりに買った銘柄より年平均3.2ポイント値上がりしていました。ある資産運用会社のアドバイザーの成績を8年分、年ごとの順位で比べると、28組の相関の平均は0.01で、「去年よかった人が今年もよい」傾向は事実上ありませんでした。投資信託の3本に2本はどの年も市場全体を下回る、とも書かれています。
では何を頼りにするか。専門家の予測と、数項目を点数化した単純な式の予測を比べた研究は200件以上あり、約60%で式がはっきり上回り、残りはほぼ引き分けでした。人の判断は、同じ材料を見ても日によってぶれるからです。
会社員の場面では。NISAで「この銘柄は来る」と感じたときの手応えは、当たる確率の目盛りではありません。売り買いの前に理由を書き出し、時間をおいて読み返す。それだけで、自信と根拠を分けて見られるようになります。
5つの場面に共通する仕組み:速い係が答え、遅い係が素通しする
本はこう言う。著者は頭の働きを二人の登場人物にたとえます。一瞬で印象や答えを出す「システム1」と、計算や確認のように手間のかかる仕事をする「システム2」です。私たちは自分をシステム2だと思っていますが、材料のほとんどはシステム1が出し、システム2は多くの場合それを承認しているだけ。上の5つの場面のずれは、どれもここから生まれます。なお著者は、二つは脳の部品ではなく説明のための「架空のキャラクター」だと断っています。
なぜそう言えるか。有名なのがバットとボールの問題です。合わせて1ドル10セント、バットはボールより1ドル高い。ではボールは? 頭に浮かぶ「10セント」だと合計が1ドル20セントになってしまい、正解は5セントです。本によると、ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学・プリンストン大学の学生でも半数以上が10セントと答えました。試す大学を広げれば誤答は8割を超えただろう、と著者は見ています。確かめるのに数秒しかかからないのに、確かめない。問題は頭のよしあしより、確認の手間を惜しむことにある、というのです。しかもこのくせは、知っていても消えません。矢羽根つきの2本の線(ミュラー・リヤー錯視)は、定規で同じ長さと確かめた後も違って見えます。
会社員の場面では。朝いちばんのメールに反射で「承知しました」と返し、あとで添付の条件を読んで青ざめる。会議で「来月には出せます」と言ってから工数を数えてぞっとする。くせが消せない以上、頼れるのは「間違えると痛い場面だけ、外側に段取りを用意しておく」ことです。
| 場面 | 起きやすいずれ | 本に出てくる対策 |
|---|---|---|
| 見積もり・交渉 | 関係のない数字に引っぱられる | 先に自分の見積もりを書き、そのあとで相手の数字を開く。反対の理由も考える |
| 面接・評価 | 易しい問いへのすり替え、第一印象の持ち越し | 項目を決めて1つずつ採点し、合計で決める。採点の順番を工夫する |
| 会議・報告 | 手元の話だけで結論を出す | 話し合いの前に各自の意見を書いて出す |
| 成績の上下 | 偶然の波に原因をつける | 平均から出発し、手がかりの当てになり度合いの分だけ予測を動かす |
| お金と予測 | 自信を根拠と取り違える | 基準になる割合(基準率)から出発し、証拠の確かさを疑う |
調べてみた:上巻の研究は、いまどこまで確かなのか
原著は2011年刊。その後、心理学では「有名な実験をやり直すと同じ結果が出ない」再現性の問題が注目されました。主な点を調べました。
| テーマ | 調べて分かったこと | 本との関係 |
|---|---|---|
| 心理学全体の再現性 | 2015年に心理学の論文100本を追試した研究では、元は97%が有意だったのに追試では36%。効果の大きさも平均で約半分(反論もある) | 上巻の研究も、一つずつ確かさが違う前提で読む |
| 第4章のプライミング | 高齢者に関する単語を読ませると歩くのが遅くなる、という実験は2012年の追試で再現されなかった。著者自身が同年、分野の研究者に追試を求める公開メールを送り、2017年には第4章で引いた研究について「検出力の低い研究を信じすぎた」と認めた | 第4章の「行動が変わる」系の話は、本の中でも割り引いて読む部分。言葉の連想が速くなる、といった基本の部分は別 |
| アンカー(第11章) | 36の研究室・6,344人で13の効果を一斉に追試した「Many Labs」では、アンカーは安定して再現された。一方で国旗やお金のプライミングは再現されなかった | 場面1(見積もり・交渉)は、いまも足場のしっかりした話 |
| 連言錯誤(第15章、リンダ問題など) | ギゲレンツァーさんらは、確率ではなく「100人のうち何人」と聞けば誤りが大きく減ると批判した。著者も本の中でこの論争に触れ、同じ章の健康調査の問題では、頻度で聞くと誤りが65%から25%に減ったと紹介している | 「人間は確率に弱い」は、聞き方しだいでかなり変わる |
| 構造化面接(第21章) | 採用手法の予測力を見直した2022年の大規模な分析(サケットさんら)でも、質問と採点基準を決めた構造化面接は予測力が最も高い手法の一つとされ、自由な面接を大きく上回った | 著者の1955年の面接方式は、70年近くたっても方向として正しい |
| 投資のプロの成績 | S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスの「SPIVA日本版」2025年末版では、2025年12月までの15年間で、どのカテゴリーでも大多数のアクティブファンドが指数を下回った | 「3本に2本は市場平均以下」という本の指摘は、日本の最近のデータでもおおむね当てはまる |
| 判断する人の増加 | 総務省の家計調査では、二人以上の世帯の有価証券の平均保有額が、世帯主30代で2020年60万円→2025年293万円。金融庁によるとNISA口座は2026年6月末で3,048万口座 | 場面5(お金と予測)は、いまの30〜40代にとって他人事ではない |
上巻は「全部が確かな事実」でも「全部崩れた」でもありません。アンカー・平均への回帰・式と面接の比較といった柱は残り、第4章の一部は著者自身が考えを改めています。本の結論を使うときは、どの章の話かを意識するのが正しい読み方です。
多本読造の見立て:賛成できる点と、別の見方
賛成できる点:意志ではなく「段取り」で直すという発想
この本のいちばんの価値は、「気をつけよう」で終わらせないところです。くせは知っていても消えないから、順番を変える、紙に書く、項目に分ける。どれも意志に頼らず、明日の会議から試せます。著者は採点方法を変えたとき、点のばらつきが見えて落ち着かなくなったと正直に書いています。仕組みを入れて自信が揺らぐのは、見えていなかったずれが見えた証拠なのです。
別の見方:直感が頼りになる人・場面もある
一方で、「直感はあてにならない」を全部の場面に広げるのは行き過ぎだと考えます。著者自身、目を閉じて出す総合印象が当たった例を書き、下巻の最初の章は「エキスパートの直感」です。同じ種類の判断をくり返し、すぐ答え合わせができる仕事では、直感は磨かれやすいはずです。答え合わせが遅い判断・めったにない判断・お金や人の一生が懸かる判断ほど仕組みを使い、日々の小さな判断は速い係に任せる。この線引きを自分で持っておくと、本の教えが「何でも疑う疲れる習慣」にならずに済みます。
また、本の数字は主に海外の当時の実験のものです。数字そのものより「どちらにずれやすいか」を持ち帰るのがよいと思います。
| 速い係に任せてよい | 遅い係を呼ぶ(仕組みを使う) |
|---|---|
| 毎日くり返し、すぐ結果が分かる判断(メールの仕分け、いつもの段取り) | 結果が分かるのが何か月・何年も先の判断(採用、投資、新規事業) |
| 間違えてもすぐ直せる判断 | やり直しがきかない・金額が大きい判断 |
| 自分が何度も答え合わせしてきた分野 | 初めての分野、相手が数字を先に出してきた場面 |
多本読造流の実践:1週間で「判断の段取り」をつくる
本の対策はたくさんありますが、全部を一度にやろうとすると続きません。わたしのおすすめは、1日1つずつ、場面を決めて試すことです。道具はふせんか情報カードと、スマホのメモだけで足ります。
| 曜日 | やること | ねらい |
|---|---|---|
| 月 | 今週の大きな判断を1つ選び、「自分の予想」と「当たる自信(何%)」をメモに書く | 自信と当たり外れを後で比べるための記録 |
| 火 | 見積もりや相場を、前例・相手の数字を見る前に自分で書く。書いてから資料を開く | アンカー対策(場面1) |
| 水 | 会議の前に、議題への自分の意見をふせん1枚に1行で書いておく。可能なら全員に頼む | 先に話した人に流されない(場面3) |
| 木 | 人を評価する場面(面接・部下の評価・業者選び)で、項目を3〜6個決め、1項目ずつ点をつけてから全体を見る | すり替えと第一印象の対策(場面2) |
| 金 | 「普通はどれくらいの割合でうまくいくか」を1つ調べる(似た企画の成功率、自分の過去の納期遅れ率など) | 基準率から出発する(場面4・5) |
| 土 | 家計やNISAで売り買いしたくなったら、理由を1行書いて24時間置く | 「売った株のほうが上がっていた」を防ぐ(場面5) |
| 日 | 月曜のメモを見返し、自信の%と結果を並べる。大きく外れたものは「何が見えていなかったか」を1行 | 自信は証拠ではないことを、自分のデータで確かめる |
2週目からは、効果を感じたものだけ残します。特に水曜の「会議前の1行」は、ひとりでも始められ、チームに広げると効き目が大きい方法です。
- 本当の問いを1行で書いたか(易しい問いにすり替わっていないか)
- この話に出てこない人・部署・データは何か
- 最初に見た数字に引っぱられていないか(自分の数字を先に書いたか)
- 「普通はどのくらいの割合でうまくいくか」を確かめたか
- たまたまの上振れ・下振れを、原因のある話にしていないか
- 自信の強さを、当たる根拠と取り違えていないか
よくある疑問
- 『ファスト&スロー』は難しいですか?
- 専門用語はありますが、各章が短い実験やクイズから始まるので読み進めやすい本です。気になった章から読んでも大丈夫です。
- 上巻だけ読めば十分ですか?
- 判断のくせ(直感・アンカー・平均への回帰・自信過剰)は上巻でひと通り分かります。損得の感じ方(損失回避・プロスペクト理論)や「経験する自分と記憶する自分」は下巻の内容なので、お金の判断に関心がある人は下巻まで読むのがおすすめです。
- 再現されない研究があるなら、読む意味はありますか?
- あります。アンカーなど本の柱の多くは大規模な追試でも残っています。考え直されたのは主に第4章の一部で、著者自身がそれを認めています。どの章が強く、どこが弱いかを知って読めば、十分に役立ちます。
- 投資がうまくなる本ですか?
- 銘柄の選び方を教える本ではありません。「自分の判断は当たる」という自信がどこから来るか、を知る本です。売り買いの前に一度立ち止まる理由にはなりますが、何を買うかは自分の状況に合わせて判断してください。
この本が合う人・合わない人
| 悩み | 合うかどうか |
|---|---|
| 会議や面接で、自信のある人の意見に流されてしまう | ◎ ハロー効果・自信過剰の章がそのまま使える |
| 見積もりや予算の数字が毎回外れる | ◎ アンカーと「平均から出発する」予測の直し方が役立つ |
| すぐ使えるテクニックだけを短く知りたい | △ 実験の説明が中心で分量も多い。まず動画や要約で全体をつかんでから読むのがおすすめ |
| 損得の感じ方・お金の心理を知りたい | △ その中心は下巻。上巻と下巻をセットで |
あわせて使いたいもの
上巻の考え方を、仕事の判断に落とし込むのに役立つものを選びました。
上巻の続きです。専門家の直感が当てになる条件、損をしたくない気持ちがお金の判断をどう歪めるか(プロスペクト理論)などが扱われます。NISAなどで自分の判断でお金を動かす人は、上巻とセットで読むと全体像がつかめます。
Amazonで見る / 楽天ブックスで見る同じ人・同じ組織でも判断がばらつく「ノイズ」を扱った、カーネマンさんの晩年の共著です。上巻第7章の「判断を互いに独立させる」や第21章の「項目ごとに採点する」を、組織の評価や審査にどう組み込むかがさらに詳しく分かります。
Amazonで見る / 楽天ブックスで見る上巻で「専門家の予測は当たらない」研究として出てくるテトロックさんが、その後に見つけた「よく当たる人たち」の考え方をまとめた本です。基準率から出発する、少しずつ予測を直す、といった上巻の対策を練習する手引きになります。
Amazonで見る / 楽天ブックスで見る会議前に意見を1行書いて出す、面接の評価項目を1枚に1つずつ書いて採点する、といった実践に使いやすいカードです。紙が厚めで机の上で並べ替えやすいので、項目ごとの採点を「合計してから見る」流れが作りやすくなります。
Amazonで探す / 楽天市場で探すまとめ
- 直感はすぐ答えを出し、熟慮はたいていそれを素通しする。しかも少ない情報ほど自信が強くなる
- 難しい問いのすり替え・関係ない数字・偶然の物語化が、会議・面接・見積もり・投資の判断をずらす
- 直すのは意志ではなく段取り。意見を先に書く、自分の数字を先に出す、項目ごとに採点する――大きな判断のときだけでよい
動画でもっと気軽に。多本読造じいがアニメで、上巻の要点を会社員の場面で解説しています。
参考文献・出典
- ダニエル・カーネマン著、村井章子訳『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房、2012年11月(ISBN 978-4-15-209338-7)
- 紀伊國屋書店ウェブストア「ファスト&スロー―あなたの意思はどのように決まるか?〈上〉」書誌情報 https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784152093387
- Open Science Collaboration (2015) “Estimating the reproducibility of psychological science”, Science 349(6251), aac4716 https://doi.org/10.1126/science.aac4716
- Doyen, S. ほか (2012) “Behavioral Priming: It’s All in the Mind, but Whose Mind?”, PLoS ONE 7(1), e29081 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0029081
- Ed Yong「Nobel laureate challenges psychologists to clean up their act」Nature News、2012年10月3日 https://www.nature.com/news/nobel-laureate-challenges-psychologists-to-clean-up-their-act-1.11535
- Retraction Watch「”I placed too much faith in underpowered studies:” Nobel Prize winner admits mistakes」2017年2月20日 https://retractionwatch.com/2017/02/20/placed-much-faith-underpowered-studies-nobel-prize-winner-admits-mistakes/
- Klein, R. A. ほか (2014) “Investigating variation in replicability: A ‘Many Labs’ replication project”, Social Psychology 45(3), 142-152 https://doi.org/10.1027/1864-9335/a000178
- Gigerenzer, G. (1996) “On narrow norms and vague heuristics: A reply to Kahneman and Tversky”, Psychological Review 103(3), 592-596 https://doi.org/10.1037/0033-295X.103.3.592
- Sackett, P. R., Zhang, C., Berry, C. M. & Lievens, F. (2022) “Revisiting meta-analytic estimates of validity in personnel selection: Addressing systematic overcorrection for restriction of range”, Journal of Applied Psychology 107(11), 2040-2068 https://doi.org/10.1037/apl0000994
- S&P Dow Jones Indices「SPIVA Japan Year-End 2025」 https://www.spglobal.com/spdji/en/spiva/article/spiva-japan-year-end-2025/
- 総務省統計局「家計調査(貯蓄・負債編)貯蓄・負債(世帯主の年齢階級別)」表0002210018(e-Stat、2025年平均) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0002210018
- 金融庁「NISA口座の利用状況に関する調査結果(令和8年6月末時点)の公表について」2026年10月2日 https://www.fsa.go.jp/policy/nisa/20261002.html
