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30代後半から40代になると、案件の継続か撤退か、ローン、保険、転職と、「手放すかどうか」を自分で決める場面が一気に増えます。わたし(多本読造)も会社員のころ、使われていない社内ツールの保守費を「せっかく作ったから」と3年払い続けました。
この「手放せない」の正体を実験で解き明かしたのが、ダニエル・カーネマンさんの『ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?』(村井章子さん訳、早川書房)です。この記事では、下巻を章の順ではなく悩みの順に組み直して解説し、その後の研究と、明日から使える「やめ時ルール」の作り方まで紹介します。
- 下巻の核心(損失回避・フレーミング・二つの自己)を会社員の場面で解説
- 「損は得の2倍」は本当か? その後の研究との突き合わせ
- 多本読造流「やめ時ルール」の1週間プランと5つの問い
先に結論です。下巻のメッセージは「人は事実ではなく、どこから見たか・どう言われたか・どう覚えているかで選ぶ。だから一つずつ気合いで決めず、先に決めたルールと外から見る仕組みで決めよう」です。意志に頼らない段取りを教えてくれる本です。
『ファスト&スロー(下)』の基本情報と、向いている人
| 書名 | ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか? |
|---|---|
| 著者・訳者 | ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(訳) |
| 出版社・発行 | 早川書房、2012年11月(原著 Thinking, Fast and Slow は2011年刊。文庫版もあり) |
| ページ数 | 350ページ |
| ISBN | 978-4-15-209339-4 |
| 下巻の範囲 | 第22〜38章と結論、付録の論文2本 |
カーネマンさんは、人がお金や危険をどう判断するかを実験で調べた心理学者で、2002年にノーベル経済学賞を受けました。2024年3月に90歳で亡くなっています。下巻は、上巻で説明した直感のくせが選択・お金・幸せの場面でどう表れるかを扱います。
- 続けるか、やめるかの判断を任される立場になった中堅の会社員
- 投資・保険・住宅ローンなど、家計の大きな判断を前に迷っている人
- 忙しい毎日の時間の使い方を見直したい人
本の核心:「手放せない」「流される」を生む7つの仕組み
下巻には実験がぎっしり詰まっていますが、言っていることを束ねると7つの論点にまとまります。ここでは章の順番ではなく、「やめられない」という悩みに近い順に並べ替えました。それぞれ「本の主張」「なぜそう言えるか」「会社員の場面に置き換えると」の3段で見ていきます。
論点1 人は「残高」ではなく「増えたか減ったか」で感じる
本の主張:経済学は長いあいだ、人の満足を「持っている財産の総額」で考えてきました。カーネマンさんはここに異を唱えます。人が感じているのは総額ではなく、基準となる点(参照点)から上がったか下がったかだ、というのです。
なぜそう言えるか:本では、今日の資産が同じ500万でも、昨日100万だった人と900万だった人では気分がまるで違う、という例が出てきます。冷水と湯に浸けた両手を同じぬるま湯に入れると、片方は温かく片方は冷たく感じるように、感覚はもともと「変化」を拾う仕組みだ、というのが著者の説明です。さらに、変化への敏感さは額が大きくなるほど鈍ります(本の例は100ドル→200ドルと900ドル→1000ドル)。身近に言えば、100円が200円になる喜びは大きいのに、1万100円が1万200円になってもほとんど何も感じません。
会社員に置き換えると:同じ年収600万円でも、去年650万円だった人にとっては「下がった年」です。ボーナスの額より「前年比」に一喜一憂するのは、わがままではなく人の標準仕様です。何を基準に置くかで、同じ数字が喜びにも不満にもなります。
論点2 損は、同じ額の得よりおよそ2倍こたえる
本の主張:下巻の中心にあるのが「損失回避」です。表が出たら150ドルもらえ、裏なら100ドル払うコイン投げ。明らかに有利なのに、たいていの人は断ります。
つまり、損失の二倍の利得が見込めないと、ギャンブルには乗らない。
――ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー(下)』(村井章子 訳、早川書房)
なぜそう言えるか:本は「100ドル失うかもしれない賭けに乗るには、勝ったとき最低いくら欲しいか」を自分に聞いてみるよう勧め、多くの人の答えはおよそ200ドルだと書いています。数多くの実験でも、損失の重みは得の1.5〜2.5倍に収まりました。この性質を組み込んだ理論が「プロスペクト理論」で、①参照点からの変化で感じる、②変化が大きくなるほど感じ方は鈍る、③損のほうが重い、の3つが柱です。
会社員に置き換えると:「業務の見直しで、Aさんの担当は増えるがBさんは減る」という改革案が、全体では得なのに通りにくいのはこのためです。減る側の痛みは、増える側の喜びの約2倍の声量で会議に届きます。本も、改革で損をする側の抵抗が強いことを指摘しています。
論点3 持っているだけで、価値が上がって見える(保有効果とサンクコスト)
本の主張:損失回避は「手放すこと」にも働きます。大学のマグカップを使った実験では、カップを渡された人がつけた売値は平均7.12ドル、持っていない人がつけた買値は平均2.87ドルでした。同じカップでも、自分の物になった瞬間に倍以上の値打ちを感じるわけです。本はこれを「保有効果」と呼びます。
そこから一歩進むのが「サンクコスト(埋没費用)」です。チケットを自分で買った人は大雪の予報でも遠くの会場へ車を出しがちですが、ただでもらった人は家にいる、という例が本にあります。払ったお金はどちらにしても戻らないのに、「行かないと払った分が無駄になる」という心の帳簿が判断を動かします。投資でも、利益の出ている銘柄を売って含み損の銘柄を抱え続ける傾向があり、本はそれがかえって損になりやすいことをデータで示しています。
なぜそう言えるか:私たちは頭の中に、目的ごとの「勘定」を作っています(本は心の会計=メンタル・アカウンティングと呼びます)。損を確定させると、その勘定を赤字のまま閉じることになる。その痛みを避けたくて、追加でつぎ込んでしまうのです。本は、すでに大金を使った事業にさらに予算を足す会社の例を挙げ、責任者(経営トップ)が替わると前任者の案件を打ち切りやすくなることも指摘しています。ただし、売るための在庫や、交換に慣れた熟練トレーダーでは保有効果が弱まる、という条件も書かれています。
会社員に置き換えると:「せっかく導入したから」「3年かけたから」は、サンクコストの典型的な口ぐせです。本が勧める問い直しは、「今日、白紙の状態でこの案件を持ちかけられたら、引き受けるか?」。前売り券の例で言えば「ただでもらった券だったとしても、この雪の中を行くか?」と同じ構図です。
論点4 追いつめられた人ほど、大きく賭ける
本の主張:損失回避には、もう一つ厄介な顔があります。得の場面では慎重な人が、損の場面では賭けに出るのです。「確実に900ドルもらう」と「90%の確率で1000ドル」なら多くの人が確実なほうを取りますが、損失の側で同じ組み合わせ(900ドルを確実に失うか、9割の見込みで1000ドルを失うか)を示されると、賭けのほうを選びます。
なぜそう言えるか:本は、確率の感じ方も歪んでいると説明します。人は確率をそのままの重さで扱わず、「ほぼ確実」が「確実」になる変化や、「ゼロ」が「わずかにある」に変わる変化だけを、実際より大きく感じます。その結果、高い確率で損をしそうな場面では、わずかな逆転の望みにすがって大きく賭けてしまう。本はこれを、得と損、高い確率と低い確率の組み合わせで4つに分けた「四分割パターン」として整理しています。
会社員に置き換えると:遅れが出ているプロジェクトで、手堅く範囲を縮めるより「全部入りで間に合わせる」一発逆転案に飛びつく。負けが込んだ投資で、取り返そうと取引額を増やす。どちらも「損の場面ではリスクを取りたくなる」性質の表れです。追い込まれたときほど、判断が賭けに寄っていないかを疑いましょう。
論点5 一つずつ決めるから損をする(リスクポリシー)
本の主張:では、どう決めればいいのか。本の答えは「目の前の1件だけを見ない」ことです。勝てば200ドル、負ければ100ドルのコイン投げを1回だけと言われると断る人も、100回続けてよいと言われれば受けたくなる。実際、100回なら期待値は5000ドル、1ドルでも損をする確率は約2300分の1しかありません。
なぜそう言えるか:1件ずつ決めると(本は「狭いフレーム」と呼びます)、損失回避が毎回顔を出し、少し有利な賭けをすべて断ってしまう。ところが人生には同じような判断が何十回も訪れるので、全部まとめて見れば小さな勝ち負けを数多く積み重ねるほうが得になります。そこで本は、似た判断にはあらかじめ方針(リスクポリシー)を決めておけ、と勧めます。具体例として挙げられているのは、個人の投資の点検は3か月に1回で足りる、保険は自己負担額が大きく保険料の安いものを選ぶ、家電の延長保証は付けない、といった方針です。ただし前提があり、1回ごとの結果が互いに独立していること、負けても生活が揺らがない額であること、が条件です。
会社員に置き換えると:証券アプリを毎日開けば、小さな損が目に入るたびに損失回避が発動します。「見るのは3か月に1回」と決めるだけで、判断の回数そのものが減ります。レジで延長保証を勧められても、事前に決めておけば数秒で終わります。
| 1件ずつ悩むと | 方針にすると(本の例をもとに) |
|---|---|
| 毎日の値動きに一喜一憂し、下がると売りたくなる | 投資の見直しは四半期に1回 |
| 保険・保証を勧められるたびに不安で付け足す | 自己負担額の大きい保険を選び、延長保証は付けない |
| 少し有利な挑戦も「失敗が怖い」と全部断る | 生活が揺らがない小さな挑戦は、まとめて引き受ける |
※どの方針が合うかは家計や体の状況によって違います。本の例は「方針を先に決める」考え方の見本として読んでください。
論点6 計画は「内側」ではなく「外側」から見る
本の主張:著者は自分の失敗も書いています。高校向けの教科書を作るチームで、メンバー全員に完成までの年数を書いてもらうと、予想は2年前後に集まりました。ところが、似たチームを数多く見てきた専門家に聞くと、同じ段階から完成までに7〜10年かかり、約4割はそもそも完成しなかったという。それでもチームは続け、完成は8年後、教科書は結局使われませんでした。
なぜそう言えるか:自分たちの事情から積み上げる見積もり(内部の見方)は、うまくいく筋書きに引っぱられます。本は、似た事例の実績(外部の見方、参照クラス)から出発し、そこから自分たちの事情で補正するよう勧めます。建設費が当初見積もりの10倍以上にふくらんだスコットランドの議事堂の例も紹介されています。さらに、楽観に流されないための道具として、心理学者ゲーリー・クラインさんの「死亡前死因分析(プレモーテム)」が登場します。計画を決める直前に「1年後、この計画は大失敗に終わった。その経過を短く書いてください」とメンバーに頼む方法です。
死亡前死因分析のよいところは、懐疑的な見方に正統性を与えることだ。
――ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー(下)』(村井章子 訳、早川書房)
会社員に置き換えると:「この資料、金曜までにいけます」と言う前に、過去に似た資料が実際に何日かかったかを確認する。キックオフ会議の最後の10分を「失敗したとしたら原因は?」を書く時間にする。
論点7 同じ事実でも「言い方」と「初期設定」で選択が変わる
本の主張:手術の説明で「1か月後の生存率は90%です」と言われると84%の人が手術を選び、「1か月以内の死亡率は10%です」と言われると50%に下がった、という実験があります。中身は同じなのに、言い方(フレーム)で選択が変わる。しかも医師でも同じように影響を受けました。
なぜそう言えるか:速く働く直感は「生存」「死亡」という言葉の感情にそのまま反応し、裏返せば同じ数字だという計算までは自発的にしてくれないからです。さらに大きいのが「初期設定(デフォルト)」の力です。臓器提供の意思表示で、何もしなければ同意とみなす国と、自分で同意の欄に印を付ける国とでは、同意率に大きな差が出ていました。
会社員に置き換えると:「解約率5%」と「継続率95%」、「残業が月10時間減る」と「年120時間減る」。報告書の書き方ひとつで、上司の判断も、自分の判断も動きます。大事な判断の前には、同じ数字を裏返して言い直してみるのがいちばん手軽な防御です。また、自分で自分の「初期設定」を作ることもできます。給料日に自動で積み立てる設定は、その典型です。
番外の論点 選ぶのは「記憶」、生きているのは「経験」
本の主張:第5部で本は、話を「幸せ」に広げます。大腸の内視鏡検査を受けた患者の記録では、検査が長かった人より、最後に強い痛みがあった人のほうが、検査全体をつらかったと記憶していました。記憶は、いちばん苦しかった瞬間と最後の瞬間でほぼ決まり、長さは無視される。これが「ピーク・エンドの法則」です。冷たい水に手を浸す実験では、60秒浸けたあと少しだけ水温が上がる30秒を足した「長いほう」を、多くの人が次も選びました。苦痛の合計は多いのに、終わり方がましだったからです。
なぜそう言えるか:著者は、その瞬間を生きる「経験する自己」と、あとで振り返って評価し、次の選択を決める「記憶する自己」を分けて考えます。そして、選択の権限を握っているのは記憶する自己のほうだと言います。実際に1日の気分を時間ごとに記録してもらう調査では、不快な時間の割合が高い活動は朝の通勤(29%)、仕事(27%)でした。毎日の「経験」を大きく削っている時間は、記憶には残りにくいのです。
会社員に置き換えると:旅行の最終日に雨が降ると「残念な旅だった」と覚え、会議の最後の5分が荒れると「ひどい会議だった」と記憶される。逆に、毎日の通勤のつらさは「いつものこと」として記憶の評価に上がってきません。引っ越しや転職では、年収や間取りだけでなく、毎日何分を何に使うことになるかも並べて比べる。これが本から引き出せる使い方です。
調べてみた:下巻の研究は、その後どう確かめられたのか
原著は2011年刊です。その後の研究を当たり、補強されたもの・修正されたものを並べました。
| 本の主張 | その後に分かったこと | どう読むか |
|---|---|---|
| 損は得のおよそ2倍こたえる(1.5〜2.5倍) | 607個の推定値をまとめた2024年のメタ分析で平均約1.96倍(Brownほか) | 「約2倍」は大筋で裏づけられた |
| 損失回避は広く働く | 少額の賭けなどでは差が小さく、一般原則とみなすのは早いという反論(Gal & Rucker、2018年) | 「いつでも必ず2倍」ではなく「条件で変わる傾向」として使う |
| 年収がある水準(約7万5000ドル)を超えると、日々の幸福感は増えなくなる | 著者自身が反対の結果を出した研究者と共同で調べ直し、2023年に「頭打ちは不幸感の強い層だけ。大多数は収入とともに上がり続ける」と更新(PNAS) | 本の数字は2023年の研究とセットで読む |
| 計画は楽観に流れる。外部の見方で補正せよ | 本に登場するフリウビアさん(邦訳ではフリウビヤ)が1万6000件超の大型事業を分析。予算内かつ期限内は8.5%(『BIG THINGS』) | 本の主張は、より大きなデータで補強された |
| 終わり方が記憶を決める(ピーク・エンド) | 682人を無作為に分けた2003年の試験で、終わりに穏やかな時間を足した群は検査をより不快でなかったと評価し、次の検査にも来やすかった | 実験室だけでなく、医療の現場でも確かめられた |
| 初期設定(デフォルト)が行動を決める | 本で紹介される「昇給のたびに積立率が自動で上がる」制度の導入例で、貯蓄率が約3.5%から13.6%に(Thaler & Benartzi、2004年)。因果の強さには限界との評価も | 「意志」より「設定」の効果は大きいが、数字は幅をもって読む |
日本の数字も見ておきます。総務省の社会生活基本調査(2021年)では、正社員の仕事のある平日の通勤時間は30代で往復85分、40代で84分。本で最も不快とされた通勤に、毎日1時間半近くを使っています。
下巻の柱である「損は得より重い」「終わり方が記憶を決める」「計画は楽観に流れる」は、その後のより大きなデータでも大筋で支えられています。一方で、損失回避の強さは条件で変わり、年収と幸福の話は著者自身が亡くなる前年に修正しています。本の数字は「傾向」として使い、断定の道具にはしないのが正しい付き合い方です。
多本読造の見立て:賛成できる点と、別の見方
賛成できる点:「やめられないのは性格のせいではない」と分かる
この本の効き目は、読んだ人の自己嫌悪を減らしてくれることです。赤字の案件を切れない、含み損を見られない――それは意志が弱いからではなく、誰の頭にも入っている標準装備の働きです。原因が性格ではなく仕組みにあると分かれば、対策も「もっと強くなる」ではなく「ルールと手順を変える」に切り替えられます。著者自身、自分の直感はほとんど良くならず、良くなったのは間違えやすい場面に気づく力だ、と結論で書いています。
別の見方:慎重さが役に立つ場面もある
一方で、「損失回避=直すべき癖」と読みすぎないほうがいいとも感じます。貯金が少ない、家族の生活がかかっている、といった条件の人にとって、大きな損を避ける慎重さは家計の安全装置です。本自身も、リスクポリシーが有効なのは「負けても生活が揺らがない額」の判断に限ると条件を付けています。余力のある判断ではまとめて小さく挑戦し、生活の土台に関わる判断では慎重さを大事にする――条件によって使い分ける、が多本読造の読み方です。
また、記憶が選ぶ仕組みは悪いことばかりではありません。旅行の最終日に少しいい店で食事をする、プロジェクトの最後を振り返り会で気持ちよく締める、といった工夫はピーク・エンドを味方につける使い方です。
- やめられないのは性格ではなく仕組み → 対策は「ルールと手順」
- 小さな判断はまとめて挑戦、生活の土台は慎重に → 条件で使い分ける
- ピーク・エンドは避けるだけでなく、「良い終わり方」を作るのにも使える
多本読造流の実践:1週間で「やめ時ルール」を作る
下巻の論点を組み合わせ、「やめ時ルール」を1週間で作る手順にしました。
| 日 | やること(使う論点) |
|---|---|
| 1日目(月) | 「続けているけれど、迷っているもの」を5つ書き出す(案件・サブスク・投資・保険など)/論点3 |
| 2日目(火) | それぞれに「今日、白紙の状態で勧められたら始めるか?」と問い、○△×を付ける/論点3 |
| 3日目(水) | ×と△について、似た事例の実績を1つ調べる/論点6 |
| 4日目(木) | 続けるものについて「1年後に失敗していたら、原因は何か」を5分で3つ書く/論点6 |
| 5日目(金) | 判断の数字を裏返して言い直す(「継続率95%」→「20人に1人が解約」)/論点7 |
| 6日目(土) | 小さな判断の方針を3つ決め、メモ帳の1ページ目に書く/論点5 |
| 7日目(日) | 平日の1日を1時間ごとに振り返り、つらかった時間に印を付ける。減らせるものを1つ選ぶ/番外の論点 |
ポイントは、やめる・続けるの結論を急がないことです。材料と方針がそろえば、決断は驚くほど軽くなり、6日目の方針は次からそのまま使えます。
- 白紙の状態で勧められても、今から始めるか?
- 似たケースは、ふつうどのくらいの期間・費用で、どんな結果になっているか?
- 1年後に失敗していたとしたら、いちばんありそうな原因は何か?
- 数字を裏返して言い直しても、同じ結論になるか?
- これは生活の土台に関わる判断か、まとめて小さく挑戦してよい判断か?
よくある疑問
- 上巻を読まずに、下巻から読んでも大丈夫ですか?
- 大丈夫です。下巻の中心である第4部(損失回避やフレーミング)と第5部(二つの自己)は、ほぼ単独で理解できます。
- プロスペクト理論を一言でいうと何ですか?
- 「人は損得を、基準点からの変化で感じ、損を得よりおよそ2倍重く感じる。さらに確率を実際どおりの重さで扱わない」という、実際の人間の選び方を説明する理論です。
- 「損切りは早くしたほうがいい」という本ですか?
- そうとは言い切れません。本が伝えているのは、過去に払った費用ではなく、これからの見込みで判断しよう、ということです。何をいつ売るか・やめるかは、それぞれの状況で判断が必要で、本も特定の投資判断を勧めてはいません。
この本が合う人・合わない人
| こんな悩みがある人 | 本から得られること |
|---|---|
| 「ここまでやったから」と、案件や習い事をやめられない | サンクコストと保有効果の仕組みと、白紙で考え直す問い |
| 投資や保険のたびに迷い、毎回疲れる | 判断をまとめて方針にする「リスクポリシー」の考え方 |
| 計画がいつも遅れ、見積もりが甘いと言われる | 外部の見方とプレモーテムという具体的な手順 |
| 忙しいのに、日々の満足感が薄い | 「経験」と「記憶」を分けて、時間の使い方を見直す視点 |
反対に、すぐ使えるテクニックだけを短時間で知りたい人には分量が多めです。実験を一つずつ追う過程を楽しめる人ほど得るものが大きい本です。
あわせて使いたいもの
下巻の土台になる「速い直感」と「遅い熟慮」の働きを基礎から説明した巻です。
Amazonで見る/楽天ブックスで見る下巻の結論で紹介される「ナッジ」と初期設定の考え方を、制度づくりの側から詳しく説明した本です。
Amazonで見る/楽天ブックスで見る下巻の「外部の見方」に登場する研究者が、大型プロジェクトのデータから計画の立て方をまとめた本。仕事の見積もりに参照クラスを取り入れたい人に。
Amazonで見る/楽天ブックスで見る保有効果や心の会計を研究してきた経済学者が、研究の舞台裏を語る本です。下巻の実験が生まれた議論の背景が分かります。
Amazonで見る/楽天ブックスで見る表紙が硬く立ったままでも書ける、ポケットサイズのメモ帳。1ページ目に「やめ時ルール」と「5つの問い」を書いておけます。
Amazonで見る/楽天市場で見るまとめ
- 人は総額より「変化」で感じ、損は得のおよそ2倍こたえる。だから持っているもの・払ったものを手放せない
- 1件ずつ悩まず、方針(リスクポリシー)・外部の見方・プレモーテムという仕組みで決める
- 選ぶのは「記憶する自己」。言い方を裏返し、毎日の時間の使い方も比べてから決める
「やめられない」は弱さではなく、誰にでもある頭の仕組みです。仕組みには仕組みで対抗しましょう。
動画でもっと気軽に。多本読造じいが、下巻のポイントを図解で解説しています。
参考文献・出典
- ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?』村井章子 訳、早川書房、2012年(ISBN 978-4-15-209339-4)
- 紀伊國屋書店ウェブストア「ファスト&スロー〈下〉」書誌情報 https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784152093394
- Brown, A. L., Imai, T., Vieider, F. M. & Camerer, C. F. (2024) “Meta-analysis of Empirical Estimates of Loss Aversion”, Journal of Economic Literature 62(2), 485-516 https://www.aeaweb.org/doi/10.1257/jel.20221698
- Gal, D. & Rucker, D. D. (2018) “The Loss of Loss Aversion: Will It Loom Larger Than Its Gain?”, Journal of Consumer Psychology 28(3), 497-516 https://doi.org/10.1002/jcpy.1047
- Killingsworth, M. A., Kahneman, D. & Mellers, B. (2023) “Income and emotional well-being: A conflict resolved”, PNAS 120(10), e2208661120 https://doi.org/10.1073/pnas.2208661120
- Redelmeier, D. A., Katz, J. & Kahneman, D. (2003) “Memories of colonoscopy: a randomized trial”, Pain 104(1-2), 187-194 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12855328/
- Thaler, R. H. & Benartzi, S. (2004) “Save More Tomorrow: Using Behavioral Economics to Increase Employee Saving”, Journal of Political Economy 112(S1), S164-S187/米国労働省 CLEAR によるレビュー https://clear.dol.gov/study/save-more-tomorrow™-using-behavioral-economics-increase-employee-saving-thaler-benartzi-2004
- Klein, G. (2007) “Performing a Project Premortem”, Harvard Business Review/Mitchell, D. J., Russo, J. E. & Pennington, N. (1989) “Back to the future: Temporal perspective in the explanation of events”, Journal of Behavioral Decision Making 2(1), 25-38
- Bent Flyvbjerg & Dan Gardner『How Big Things Get Done』Currency, 2023(邦訳『BIG THINGS』櫻井祐子 訳、サンマーク出版、2024年)/Next Big Idea Club による抜粋 https://nextbigideaclub.com/magazine/big-things-get-done-surprising-factors-determine-fate-every-project-home-renovations-space-exploration-everything-bookbite/40952
- 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 生活時間に関する結果」表0003456771(e-Stat) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003456771
