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全部ちゃんと引き受けるのが、いい社員だと思っている
3300グラムの娘と「はい、行きます」
3300グラムの娘が生まれたばかりの日に、父親は電話で「はい、行きます」と答えて会議へ出かけました。妻と娘を病院に残して出た会議は、何ひとつ得るものがなかった、と本人が書いています。
この父親が、『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』の著者グレッグ・マキューンです(訳は高橋璃子さん)。
本はこう言います。“頼れる人”ほど、本当に大事なことを見失う落とし穴がある。
先に結論(三つのうち二つ)
- 大事なものは、めったにない。選ぶ基準をうんと厳しくする
- 何かに「はい」と言うのは、ほかの全部に「いいえ」と言うこと。だから上手に断る
- 3つ目は後半で。ヒントは「少年が引き換えなかった一枚の切符」です
第一の話:頼れる人ほど迷子になる(成功のパラドックス)
本が最初に示すのは「成功のパラドックス」です。成功すると頼れる人という評判がつき、仕事が集まって力が散らばり、本当にやるべきことができなくなる。成功を追ううちに失敗する、という流れです。
本に出てくるある会社では、IT部門のマネジャーが「最優先のプロジェクトが18個ある」と言いました。著者が5つに絞るよう頼むと、2週間後に出てきたリストは17個。結果はやはり失敗だったそうです。
第二の話:90点ルールと工具箱のふた
著者はスタンフォードで、24人の枠に100人以上が応募した授業の受講者を選びました。10段階で点をつけ、迷った7と8の人も不合格にしたといいます。
本はこれを「90点ルール」と呼びます。一番大事な基準を一つ決め、90点に届かないものは0点と同じに扱う、という考え方です。
イギリスの家具会社ヴィツゥでは、一日体験に来た腕のいい技師が、片づけで工具を雑に放り込んでふたを閉めただけで不採用になりました。基準がはっきりしているから、迷わず断れるのです。
第三の話:両方は取れん(二つの航空会社)
本によると、1972年にアメリカの主要500社へ1ドルずつ投資したとして、30年でいちばん稼いだのは、機内食も座席の指定もやめた格安のサウスウエスト航空でした。
これをまねたコンチネンタル航空は、ふつうの路線を続けたまま安い便も始めました。結果は1日に1000件の苦情、数億ドルの損失、CEOの解雇。本は「どうすれば両方できるか」ではなく「どの問題を引き受けるか」を問え、と言います。
第四の話:会食を断った父親
12歳の娘シンシアは、父の出張について行く夜を何カ月も楽しみにしていました。ところが父は古い友人から食事に誘われます。父は一度「それはいいね」と言い、続けて、今夜は娘と特別な約束があると断りました。
この父親は『7つの習慣』のスティーブン・コヴィー。娘はこの夜を、父との切れない絆のきっかけとして語っているそうです。
第五の話:断り方の型と「できません」
本が挙げる断り方8つのうち、三つを紹介します。
- すぐに答えず、ゆっくり3つ数える
- 「予定を確認して折り返します」と、いったん時間を置く
- 上司には「今の仕事のどれを後まわしにしましょうか」と聞き返す
韓国のIT企業で働くジン・ユンは、結婚式を前に1日15時間働いて資料を仕上げ、残り5日を式の準備にあてるはずでした。そこへ上司から急ぎの仕事。一度も断ったことのない彼女が初めて「できません」と言うと、上司は自分でその仕事をやり、最後には彼女の線引きに感謝したと本は伝えています。
第六の話:自分という資産(睡眠)
36歳のジェフは、マイクロファイナンスの会社のCEOでした。6日で5都市を回り、6時間眠れたら上出来という暮らしの末に体を壊し、会社を辞めて療養します。2年半後、200人の前で語ったのは「自分の資産を、守ってください」でした。
本は、一流のバイオリニストが1日平均8.6時間眠り、昼寝も週に2.8時間とっていた調査も紹介し、睡眠不足でいちばん困るのは、何が大事かを選ぶ力が落ちることだと言います。
調べてみた:日本の睡眠と、集中できる時間
OECDが2019年にまとめた国際比較では、日本人の平均睡眠は1日442分(約7時間22分)で、比べた国の中で最短の水準でした。
| 比べたもの | 1日の睡眠 |
|---|---|
| 日本(OECD 2019) | 442分 |
| アメリカ(OECD 2019) | 528分 |
| 本の一流のバイオリニスト | 平均8.6時間 |
調べた相手も時代も違いますが、並べると1時間あまりの差です。
もう一つ、マイクロソフトが2023年に31カ国の3万1千人に聞いた調査では、68%が「邪魔されずに集中できる時間が足りない」と答え、仕事の妨げの1位は効率の悪い会議でした。
※眠りの長さは人それぞれです。体の心配は医師にご相談ください。
第七の話:コンコルドと、誰も困らなかった報告書
超音速の旅客機コンコルドは、ロンドンからニューヨークを2時間52分50秒で飛びながら、30年も赤字でした。やめたら今までの投資がむだになる、という思いを、本はサンクコストへのとらわれと呼びます。
本の処方は「もしまだ参加していなかったら、今から入るために何を払うか」と問うこと。もう一つが「逆プロトタイプ」です。前任者が毎週作っていた凝った報告書を試しにやめてみた男性の話では、何週間も誰一人気づかなかったといいます。
最後の話:引き換えなかった切符(結論③)
カナダのリッチモンド市の警察が始めたのが「ポジティブ・チケット」。若者のよい行いに切る、ほめる切符で、映画館などの無料券になります。10年続けると、青少年の再犯率は60%から8%に下がったそうです。車にひかれかけた女の子を助けた少年は、その切符を引き換えずに壁に飾りました。
本は、見積もりは1.5倍に取れ、とも言います。
じいの見立て
腑に落ちたのは、頑張りを足すより引き算で考えるところです。図面で厳しい寸法はほんの数か所。そこに赤丸をつけ、ほかはふつうの精度で作る。本の言う「重要な少数」と同じ考えです。
見方が違うのは、断る話です。日本の職場では、若い人や下請けほど断れる立場にないことも多い。本自身も、出世の妨げになることもあると正直に書いています。じいなら、まず「どれを後まわしにしますか」の聞き返しから。若いうちの「はい」は種まきにもなるので、引き受けるなら期限と範囲を決めて受ける。じいは、そう読みました。
じい流の実践①:赤丸ひとつの段取り表
- 朝、今日やることを全部書き出す
- 一番大事な一つにだけ赤丸をつける(三つつけたら、もう赤丸ではありません)
- 赤丸の仕事にだけ90点を求め、残りは7割の出来で「下書きです」と一言そえて出す
- チャットの返事は、昼前と夕方の1日2回にまとめる
じい流の実践②:頼まれごと受付票と、金曜のやめてみる箱
工場の受注票をまねた「頼まれごと受付票」は、三つの欄を埋めるまで返事をしない、という決まりです。
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| 期限 | いつまでに |
| 終わりの形 | 何ができたら終わりか |
| 後まわし | 代わりに遅らせる仕事(上司と一緒に埋める) |
もう一つは、本の逆プロトタイプを1週間に区切った「金曜のやめてみる箱」。上司に「1週間だけ試します」と言ってから仕事を一つやめ、誰も困らなければ箱にしまいます。
読み方の注意
- 本の例はシリコンバレーの経営者や有名人が多め。使える所だけ持ち帰れば十分です
- 細部を変えたと本が断っている話もあります
- 断ればいつも丸く収まるわけではありません。ハラスメントや安全の問題は、社内の窓口や専門家へ
- 眠りや体調の心配は医師へ。転職やお金の大きな判断は、専門家やご家族とご相談ください
この本が合う人
- 頼まれると断れず、仕事が積み上がる人 → 第11章(断り方8つ)
- 会議と通知で考える時間がない人 → 第5章と第8章
- 頑張っているのに成果が見えない人 → 第1章と第16章
- やめ時が分からない人 → 第12章
全部を読み切らなくても、今の悩みに近い章から開けば大丈夫です。
まとめ
- 大事なものは、めったにない
- 「はい」は、ほかの全部への「いいえ」
- 根性ではなく、しくみにする
あなたの一日にも、赤丸をつけるべき一つが、きっとあります。
- 書名:エッセンシャル思考/副題:最少の時間で成果を最大にする
- 著者:グレッグ・マキューン/訳:高橋璃子/かんき出版/2014年12月12日発行
- ISBN:978-4-7612-7043-8
出典
- 『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』グレッグ・マキューン 著/高橋璃子 訳/かんき出版(2014年12月12日)
- nippon.com「40代の半数、睡眠時間は6時間未満 : OECD調査でも世界最短水準」(出典データ:OECD Gender Data Portal 2019)
https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00424/ - Microsoft WorkLab「Work Trend Index 2023: Will AI Fix Work?」2023年
https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/will-ai-fix-work
※本の主張は著者の見解です。睡眠の話は医学的な助言ではありません。「じいの見方」は多本読造じいの意見です。
