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「AIは、もう戦争で使われているの?」
「ChatGPTやClaudeのような生成AIは、軍事とどう関係しているの?」
「自分が仕事で使っているAIの技術は、どこまで広がっていくんだろう」
こんにちは、多本読造です。
仕事でAIを使うことが当たり前になってきた今、少し立ち止まって考えたいテーマがあります。それは、AIが戦争の現場でどう使われてきたのかということです。
今回解説するのは、Bloomberg記者のKatrina Manson(カトリーナ・マンソン)による『Project Maven: A Marine Colonel, His Team, and the Dawn of AI Warfare』です。2026年に刊行された新刊で、日本語版はまだ出ていません。
この本は、米国防総省が2017年に始めたAI計画「Project Maven(プロジェクト・メイブン)」の10年を、200人以上の関係者への取材をもとに描いたノンフィクションです。
戦争の話なので、重い内容も含まれます。ただ、この本には「AIを組織に導入するとはどういうことか」「自分の技術が何に使われるのか」という、AI時代に働く私たち全員に関係する問いが詰まっています。
こんな人におすすめ
- AIのニュースは追っているけれど、軍事との関係はよく知らない
- GoogleやMicrosoft、Palantirなどのテック企業が、国家とどう関わっているのか知りたい
- 職場でAIを導入する立場にいて、現場に定着させる難しさを感じている
この記事でわかること
- Project Mavenとは何か、なぜ始まったのか
- 最初のAIが戦場で「ほとんど役に立たなかった」話
- Google社員の抗議と、その後のテック業界の変化
- ウクライナや中東で、AIがどう使われるようになったか
- 20〜30代の働く人が、この本から学べること
動画でも解説しています
この本の内容は、アニメ動画でも要約しています。まず全体像をつかみたい方は、こちらからどうぞ。
1. Project Mavenとは何か
きっかけは、AlphaGoのドキュメンタリー
物語の主人公は、米海兵隊の情報将校ドリュー・キューカー大佐です。
2017年のある晩、キューカーは自宅で、囲碁AI「AlphaGo」が世界トップ棋士のイ・セドルに勝利したドキュメンタリーを繰り返し見ていました。人間の頂点にいる棋士が、機械の予想外の一手に追い詰められていく姿を見て、彼は確信します。
人間だけでは、もう勝てない。人間と機械の組み合わせこそが最強になる。
そして、その考えを自分の専門である戦争に持ち込もうと決めました。
原点は、アフガニスタンでの「使えないパソコン」
キューカーがAIにこだわった理由は、彼自身の戦場経験にあります。
2001年、アフガニスタンに派遣されたとき、彼が持ち込んだのは、ExcelとWordとPowerPointが入った重いパソコンでした。敵の情報はExcelの表に並び、人間関係はPowerPointの線で描かれ、すべては手作業のコピー&ペーストでまとめられていました。
結局、部隊は壁に紙の地図を貼り、手書きで情報を書き込むほうが早いという結論に至ります。キューカーが唯一見つけたパソコンの使い道は、窓ガラスが吹き飛んだ部屋の「暖房」でした。
情報は山ほどあるのに、それを活かせない。そのせいで、救えたはずの命が失われていく。この悔しさが、彼の原動力になりました。
「見る人がいない」ドローン映像
2010年代、米軍は大量のドローンを飛ばしていました。ところが、撮影された映像を見る人が足りません。本書によると、2016年の偵察映像は、合計すると80年分の動画に相当する量だったといいます。
「この映像の分析を、アルゴリズムにやらせればいい」。キューカーの提案は国防副長官に採用され、2017年4月、Project Mavenが正式に発足しました。正式名称は「アルゴリズム戦争横断チーム」。初年度の予算は約4,000万ドルでした。
表向きはドローン映像の分析でしたが、本書は、関係者たちが当初から「標的の特定」、つまり攻撃に使うことを見据えていたことを明らかにしています。
2. 最初のAIは、戦場でほとんど役に立たなかった
「準備ができる前に配備せよ」
キューカーのチームは、AIスタートアップを複数集め、90日ごとに新しいアルゴリズムを競わせました。彼の方針はシンプルです。
完璧になるまで待っていたら、永遠に使われない。まず現場に出して、使いながら直す。
チームの中には「準備ができる前に配備する」というルールまであったといいます。
ソマリアでの失敗
2017年12月、計画開始からわずか8か月で、最初のAIがソマリアの基地に導入されました。結果は散々でした。
- 人を囲む黄色い枠が太すぎて、その人が何を持っているかが見えない
- ドローンが空を映すたびに、雲を「スクールバス」と誤認識する
- 導入作業のミスで、基地のネットワークを45分間止めてしまう
現場の兵士たちは、AIの表示を「邪魔だ」と判断し、電源を切ってしまいました。
信頼を取り戻したのは「人」だった
状況を変えたのは、技術ではなく一人の人間でした。
チームは、ドローン映像の分析を長年担当してきた元空軍の分析官を現場に送り込みます。彼は肩書きのない立場で、まず無償で映像監視の仕事を手伝い、現場の信頼を得てから、AIの電源を入れ直してもらいました。
そしてある日、AIが、誰も気づかなかった茂みに隠れた人物を見つけ出します。ここから、現場でのAI活用が少しずつ広がっていきました。
新しい技術を現場に定着させるのは、性能よりも、現場を理解する人との信頼関係だった。 これは、職場でAIを導入しようとしている人にも、そのまま当てはまる教訓です。
3. Google社員の抗議と、テック業界の変化
「Googleは戦争ビジネスに関わるべきではない」
Project Mavenには、Googleのクラウド部門も参加していました。しかし、この契約は社内でも秘密にされていました。
2018年3月、契約の存在が報道されると、社内で大きな反発が起こります。社員たちは「Googleは戦争ビジネスに関わるべきではない」とする請願書をまとめ、数千人が署名しました。辞職する社員も出ました。
その結果、Googleは2018年6月、契約を更新しないと発表します。さらに、兵器へのAI利用をしないことを盛り込んだ「AI原則」を定めました。
同じころ、物体検出AI「YOLO」の開発者として知られる研究者は、自分の技術が軍事に使われることを知って衝撃を受け、のちにコンピュータビジョンの研究そのものをやめたと語っています。
その後、テック業界は大きく方向転換した
ところが、話はここで終わりません。Googleが抜けた穴は、すぐにMicrosoftとAmazon(AWS)が埋めました。そしてデータ分析企業のPalantirが、Mavenの中核システム「Maven Smart System」を担うようになります。
そして2025年2月、Googleは、兵器にAIを使わないとしていた原則の記述を削除しました。本書は、かつて軍事利用に慎重だったAI企業が、次々と国防の仕事に乗り出していく流れを描いています。OpenAIやAnthropicといった生成AIの企業も、その例外ではありません。
4. AIが戦争のスピードを変えた
ウクライナと中東で本格的に使われる
2022年、ロシアのウクライナ侵攻が始まると、ドイツの米軍基地に設けられた作戦室で、Mavenが本格的に使われ始めます。中東でも、標的の特定や、ミサイル・無人艇の発見に使われるようになりました。
本書によると、Mavenのシステムは2025年の時点で米軍の全軍種に広がり、NATO(北大西洋条約機構)も導入しています。
1日100件から、5,000件へ
本書で最も衝撃的なのは、次の数字です。
| 段階 | 1日に処理できる標的の数 |
|---|---|
| AI導入前 | 100件未満 |
| 画像認識AIの導入後 | 約1,000件 |
| 大規模言語モデル(LLM)を組み込んだ後 | 約5,000件 |
AIによって、戦争のスピードと規模が桁違いに大きくなっていることがわかります。
生成AIの「幻覚」という新しいリスク
生成AIも、すでに軍事の現場に入り始めています。本書には、太平洋地域を担当する米軍司令官が、AnthropicのチャットAI「Claude」の大ファンだというエピソードも出てきます。
一方で、リスクも明らかになっています。ある軍事用の生成AIを試験運用したところ、実際には起きていない「バグダッドの米国大使館への攻撃」を作り出してしまったといいます。いわゆる「ハルシネーション(幻覚)」です。
普段の仕事でAIがもっともらしい間違いをすることは、多くの人が経験しているはずです。それが戦場で起きたらどうなるか。本書は、その怖さを具体的に示しています。
5. この本が投げかける倫理的な問い
AIは命を救うのか、犠牲を増やすのか
AI推進派は、AIのほうが人間より正確で、民間人の犠牲や味方への誤射を減らせると主張します。キューカー自身も、戦場での「受け入れがたい犠牲」を減らすためにAIを推し進めてきました。
一方で、本書は反対の視点も丁寧に紹介しています。
- 自動化バイアス:画面にきれいに表示されたAIの判断を、人間がそのまま信じてしまう危険
- 効率化のパラドックス:攻撃が簡単になるほど、攻撃の回数そのものが増えるおそれ
- 責任の所在:判断に関わる人が増え、AIも挟まることで、誰が責任を負うのかが曖昧になる
国連では、自律型の殺傷兵器を禁止すべきだという国が120か国を超えていますが、米国・ロシア・中国などの軍事大国は、禁止に慎重な立場をとっています。
推進した本人も抱える「迷い」
印象的なのは、Mavenを生み出したキューカー自身の姿です。彼は「同じことをもう一度やる」と言い切る一方で、退役後も悪夢にうなされ、戦場の記憶を抱えて生きています。
本書の最後で、彼は著者にこう問いかけます。
これだけの技術を手にした私たちは、それを扱うのにふさわしい存在なのだろうか。
AIを推し進めた当事者が、最後にこの問いを口にする。それが、この本の一番の読みどころだと私は感じました。
6. 20〜30代の働く人が、この本から学べること
戦争の話は、自分には遠いと感じるかもしれません。でも、この本には、AI時代に働く私たちにも直接関係する教訓がいくつもあります。
① AIは「完璧になってから」ではなく「使いながら」育てるもの
Mavenは、失敗だらけの状態で現場に出し、改善を重ねることで定着しました。職場でAIを導入するときも、最初から完璧を求めると、いつまでも始まりません。小さく試して、直していく姿勢が大切です。
② AIの性能は「データ」で決まる
本書では、学習用のデータ集めが「戦いの半分以上」だったと書かれています。どんなに優れたAIも、データが整っていなければ役に立ちません。普段の仕事で、情報を整理して残しておくことが、AIを活かす土台になります。
③ AIの答えを鵜呑みにしない
戦場で起きた「幻覚」や「自動化バイアス」の問題は、私たちが仕事でAIを使うときも同じです。AIの出力は、最後に必ず人間が確認する。これはAI時代の基本中の基本です。
④ 自分の仕事が「何に使われるか」を考える
Googleの社員たちは、自分の技術が戦争に使われることを知り、声を上げました。どんな仕事でも、自分の技術や成果物が最終的に何に使われるのかを考えることは、キャリアを選ぶうえで大切な視点です。
今日からできる1つのこと
次にAIを仕事で使うとき、出力された答えを1つだけ、自分で裏付けを取ってみてください。元の資料を確認する、別の方法で検算する、詳しい人に聞く。どんな方法でもかまいません。
「AIが言ったから正しい」ではなく「確認したから正しい」。この小さな習慣が、AIを安全に使いこなす第一歩です。
まとめ
『Project Maven』は、AIが戦争を変えていく10年間を、推進した人、反対した人、現場で使った人、それぞれの視点から描いた一冊です。
- 2017年、ドローン映像の分析から始まったAI計画が、10年で米軍とNATOの中核システムになった
- 最初のAIは失敗だらけだったが、「使いながら直す」ことで現場に定着した
- Google社員の抗議を経て、テック業界は軍事への関わり方を大きく変えた
- AIは戦争のスピードと規模を大きく変えたが、その使い方には重い倫理的な問いが残っている
AIのニュースを追っている人ほど、一度読んでおきたい本です。英語の本ですが、取材に基づく物語として書かれているので、ビジネス書よりも読み進めやすいと思います。まずは上の動画で全体像をつかんでから、気になった章を読んでみてください。
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